勉強が足りない

Member blog

体系 パブリック・リレーションズ

体系 パブリック・リレーションズ』 を読んでいます。そして読みながら、なんて自分は不勉強だったのだろうかと反省をしています。これは、広報などの企業コミュニケーションに関わる者であれば、必ず読むべき本でしょう。私たちが、会議などのいろいろな場で議論をしてきたことは、ほぼすべてここに尽くされています。みながこれを学び、共通の前提としていれば、私たちの議論はずっと遠くまで進んでいたことでしょう。

原著が発行されたのは1952年、翻訳されたのは2006年発行の第9版であり、時代に合わせたアップデイトはほぼ問題ないと思います。しかし、読みやすいとはいえないですね。これはできるだけ原文に逐語的に忠実にあろうとした翻訳陣のある種の誠実さの代価だと考えます。実際、それぞれの文章を分かりやすい日本語に意訳しようとしても、それはかなり難しいのではないでしょうか。その理由のひとつに、適切な訳語がみつからない、言葉の定義がはっきりしないものが多いということがあると思います。用語の曖昧さについては、英語もかなり似た事情にあるようで、この本の冒頭では、主要な概念の定義にかなり紙幅を割いています。

まず、本のタイトルの“パブリック・リレーションズ” という言葉。1900年から1976年までおよそ500の定義が収集されたという事実でその意味のあやふやさを強調しながらも、次のような定義を与えています。 

【パブリック・リレーションズの定義】
《パブリック・リレーションズとは、組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持をするマネジメント機能である》

まず “マネジメント機能” と定義されている点に着目したいと思います。これは、経営や組織運営の一部であり、その本質は決して“コミュニケーション機能”にはとどまらないということです。また、“パブリック”とは、日本のビジネス用語でいえば、ステークホルダーと同等と捉えていいのではないでしょうか。そして、そもそも “パブリック・リレーションズ” 自体、いまの日本では、企業コミュニケーションとか広報とか置き換えても、大きく趣旨が損なわれることはないでしょう。

このように、大本の概念の定義をめぐっても話しは簡単ではありません。逆に、そんな定義に細かくこだわる必要があるのか?という考え方をする人もいるかもしれません。しかし、改めていうのも気が引けますが、定義で大切なのは、その正しさではなく、共通のものとして多くの人間が共有し、議論を始めるときのベースとすることなのです。その意味で、しばらくこの本の定義を眺めていきたいと考えます。

スコット・M・カトリップ、他『体系 パブリック・リレーションズ』 2008, ピアソン・エデュケーション

下平博文
IABCジャパン 理事
(花王株式会社)