洋の東西を問わない悩みとは? ― IABCワールドカンファレンス・レポート(3)

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下平博文
IABCジャパン理事(花王株式会社)

IABCワールドカンファレンスのレポートの続きです。
今回は、“How to Change Behaviors, Attitude and Outcomes”というセッションを紹介しましょう。私が参加したなかでは、最も会場が湧いたものの一つです。前回も触れましたが “Change Behaviors” というのはキーフレーズです。コミュニケーションの目的は、誰それの態度・行動を変えること、といわれることが非常に多い。だから、今回はきわめてストレートなタイトルですよね。聴衆に受けたのは、タイトル同様、内容も極めてシンプル・ストレートで分かりやすかったからだと思います。スピーカーは、アイルランドの大学の研究者、というと固そうな人物を想像されるかもしれませんが、少しフィルムスターのような雰囲気を持った華やかな女性で、その長身と金髪は会期を通じてひときわ目立っていました。テーマは、これもインターナル (社内) コミュニケーションです。

さて、インターナルコミュニケーションについて関係者はどのようにとらえているでしょうか。経営者、コミュニケーション担当者、一般社員の立場から、それぞれ以下のように考察されています。

■ 経営者は・・・「それ(コミュニケーション)が組織にどのような価値をもたらすのか、いまいち確信を持てない」 「もっと戦略的なコミュニケーションが必要なことはわかっている」 「端的な評価軸がない」「コミュニケーションが重要なことはわかっているが、いつも他にもっと優先順位が高いものがある (最優先事項になることはありえない)」。

■ 担当者は・・・「従業員のエンゲージメントを高める」 「各自の役割についてもっと高い自覚を持ってもらう」 「組織の戦略をよりよく認識してもらう」 とかいうが、目的が曖昧になりがち。

■ 一般社員の見方は・・・「形ばっかり」 「マネジャーはやることをやっても、気持ちをこめていない」 「部門によってコミュニケーションの精度がちがう」 「コミュニケーションの担当者や経営者は本当のところ、私たちが言いたいことに耳を傾けようとは思っていない」 「もし従業員が良いアイデアを持っていたとしたら、それに耳を傾けるべきだ」。

こうした解決できない課題を抱えながらも、コミュニケーション担当者の日々は “Too Many Tools, Too Little Time”  ツールばかり増えて時間が追い付かない。すなわち、イントラネット、連絡会、ニューズレター、社員の意識調査、そしてソーシャルメディア・・・ ”Busy with outputs rather than outcomes”・・・作業に追われて、成果までいっていない。”Outputs”と”Outcomes” も重要なキーワードです。出ました、という感じですね。この文脈でいえば、アウトプットは形にすること、アウトカムは目的である “Change Behaviors” を実現することです。イントラなどの制作に手いっぱいで、成果までたどり着いていない。手段に追われて、目的を忘れがちになる、といった感じです。会場では共感の波が苦笑となって広がっていきました。ここまでが前段です。それではどうするのか?

従業員の態度・行動を変える三つの方法 (3 ways to change behaviours)
1. 感情でつながること (Connect emotionally)
2. 話しを聞いて理解すること (Listen to understand)
3. 認めること、ポジティブなフィードバック (Recognition)

これが提言です。そして、基本的な事柄として重要なのは、

■ ニーズを理解すること (Understand the needs of your audience)
■ 手段ではなく目的・成果に注力すること (Focus on outcomes)
■ 成功のイメージをもつこと (What will success look like)
■ フィードバックを得て、評価・測定すること (Get feedback and measure)

腰が抜けるほど、あたりまえだと思いませんか?でもそれがよかったのです。前回、妙案・奇策はない、と書きましたが、このセッションでも全く同じことを感じました。洋の東西を問わず、悩みは変わらないんだ。そして、あたりまえのこと、「定石」 つまり常識的なアプローチを積み重ねていけばいいんだ・・・自分たちの取り組みの方向性は間違っていなかったんだ・・・。そのような共感が会場いっぱいに広がったように思います。これは、なんだかとても勇気を与えられることでした。

年に一度コミュニケーションの担当者が集まって互いの成功例や失敗例を交換し、悩みを打ち明け合い、勇気をもらってまた各地に散っていく。IABCのワールドカンファレンスには、そのような親睦のメリットがあることを強く感じたセッションでした。

このセッションの紹介は下記のアドレスから。
http://wc.iabc.com/sessions/how-to-change-behaviors-attitudes-and-outcomes-in-three-easy-steps/

また、下記のスピーカーの名前で検索すると、かなりの資料にアクセスできると思います。
Dr. Laoise O’Murchu