『経営理念の浸透』 を読む 第7回

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前回から引き続き、浸透 「施策」 についてみていきます。同様に、あまりに学術的だと思われる記述は省き、その場合は見出しのみ書き起こします。また学術的な用語は、見出しではそのまま生かしますが、内容の要約(■の部分)ではできるだけ普通の言葉に置き換えるようにします。

第Ⅱ部 経営理念浸透のメカニズム

第5章-組織的施策の効果と職場要素の影響 (続き)

6-組織的施策の個人要素・職場要素との適合性
■     前述の 「理念に関する研修・教育や社内アピール」 や 「理念に基づく行動評価」 は、すべての状況下で一様に効果を発揮するとは限らない
■     このような組織的取り組みが、どのような場合に有効なのか、効果的であるのはどのような場合であるのかをみていく
6.1     個人要素と理念浸透施策の交互作用
■     この章の第3節でみてきた 「管理職と非管理職による違い」、「組織成員性」、「情緒的コミットメント」 といった個人要素ごとに仮説を立てていく
【仮説5-3a】管理職の理念浸透の程度は、理念に基づく行動の評価が強いほど高い。
■     「理念に基づく行動の評価」 は、管理職層 においてより強い効果をもつと考えられる
【仮説5-3b】組織成員性と理念浸透の程度との関係は、理念についての教育・アピールが弱いほど顕著である。
■     組織成員性 の高い人ほど理念浸透が高いことが見込まれる
■     「理念の教育・アピール」 は、組織成員性の低い人の理念浸透を高めることに とくに効果をもつのに比べて、組織成員性の高い人に対して理念浸透のレベルを “さらに” 高めることは難しいと考えられる
■     したがって、組織成員性の高い人と低い人の理念浸透の差は、教育・アピールが十分になされることによって小さくなると考えられる
【仮説5-3c】組織成員性と理念浸透の程度との関係は、理念に基づく行動評価が強いほど顕著である。
■     「理念に基づく行動の評価」 を行うことは、組織成員性の高い人に対しては有効である一方、組織成員性の低い人の反発を招くおそれがある
■     逆に、「理念に基づく行動の評価」 があまりなされない場合は、組織成員性の高い人が、自分たちが評価されない といった不満をもつこことによって、理念浸透のレベルが下がることも生じうる
【仮説5-3d】組織に対する情緒的コミットメントと理念浸透の程度との関係は、理念についての教育・アピールが弱いほど顕著である。
【仮説5-3e】組織に対する情緒的コミットメントと理念浸透の程度との関係は、理念に基づく行動評価が強いほど顕著である。
6.2     職場要素と理念浸透施策の交互作用
【仮説5-4a】職場における理念への関心と個人の理念浸透の程度との関係は、理念についての教育・アピールが強いほど顕著である。
【仮説5-4b】職場における理念への関心と個人の理念浸透の程度との関係は、理念に基づく行動の評価が高いほど顕著である。

7-仮説検証の手続きと結果
7.1 データの説明
7.2 変数の説明
■     組織成員性を計る質問項目
      ・この会社の一員であることをうれしく思う
■     情緒的コミットメントを計る質問項目
      ・この会社に多くの恩義を感じている
      ・この会社に愛着を感じる
      ・自分の会社には常に忠誠心を持つべきだ
■     職場における理念への関心を計る質問項目
      ・職場で経営理念が話題に上がることがある
■     理念の教育・アピールに関する取り組みを計る質問項目
      ・経営理念に関する教育・研修は社内でよく行われていると思う
      ・経営理念の社内アピールは効果的に行われていると思う
7.3 主要な変数間の相関関係
7.4 重回帰分析の結果
7.5 組織的理念浸透施策との交互作用
■     管理職に対して 「理念に基づく行動評価」 を適用すると、本人たちの理念浸透を高めることが可能である
■     一方、非管理職に対しては、「理念に基づく行動評価」 を適用しても浸透に大きな変化は見られない
■     基本的に組織成員性が高ければ 理念浸透のレベルは高い
■     「理念の教育・アピール」 が効果的になされると、組織成員性の低い人の浸透のレベルを上げることができる
■     その結果として、組織成員性の高い人と低い人との 浸透のレベルの差が縮まる
■     「理念に基づく行動評価」 は、組織成員性の高い人と低い人との 理念浸透のレベルの差を広げる
■     「理念に基づく行動評価」 が低い場合には、組織成員性の高い人の実践に対する意欲が高められないことから、組織成員性の低い人との間の浸透の差はあまり見られない
■     職場における理念への関心が高い場合に、「理念の教育・アピール」 を効果的に実施することで、職場に所属する人の理念浸透をさらに高めることが可能である
■     逆に、職場における理念への関心が低い場合に、「理念の教育・アピール」 を実施しても、効果が十分にみられるとはいいがたい
■     理念への関心が低い職場では 「理念に基づく行動評価」 が高い場合、理念浸透のレベルがわずかに上昇する
■     理念への関心が高い職場では 「理念に基づく行動評価」 が高い場合、若干であるもの理念浸透のレベルが低くなっている(仮説【仮説5-4b】とは逆の結果)
■     その原因として、理念への関心が高い職場では、評価されるようとして理念に言及していると周りから思われることを避けるということがあるかもしれない
■     また、評価対象になることによって、かえって理念に対する共感が阻害されるといったことも考えられる
■     情緒的コミットメントに関わる【仮説5-3d】と【仮説5-3e】は、優位な関係性が出ず、支持されなかった

8-状況に適合した理念浸透施策に向けて
■     社員の組織成員性が高い場合 には、「教育・アピール」 によって理念の浸透を図ることが実は難しいため、「理念に基づく行動評価」 といった他の組織的施策の組み合わせで理念浸透を高めていく必要がある
■     逆に、組織成員性が低ければ、幅広く教育・研修を行うことによって理念に対する理解を高めて、理念浸透を図ることが重要になる
■     実際の企業研修では、優秀者を選抜し、職場の代表者として理念関係の研修に参加させることも行われている
■     だが、組織成員性の低い人だからといって理念研修から除外することは適当とはいえず、彼らにも理念研修・教育の機会を与え、理念浸透の水準を高めていくよう努力することが望ましい
■     そうした研修への参加機会を与えられることが、組織成員性を高める効果をもつことも考えられる

この節ではその他にも、理念の浸透活動について、非常に示唆に富む数多くの提言がなされています。それを全て書き出そうとすると、ほぼ本文をすべて引用することになってしまうので、詳しくはぜひ本文にあたってみてください。

個人的には、「理念に基づく行動評価」 の扱いが難しいな、と感じています。実際に私の周りにも、理念への理解や共感を表しながら、評価には抵抗を示す人がいっぱいいます。しかし、これは理念の問題というよりは、評価に対する評価の方が大きな影響を与えているのかもしれません。

 9-まとめ
■     個人要素である役職 (管理職/非管理職)、組織成員性、組織コミットメント が理念浸透と正の関係であることが検出された
■     また、職場における理念への関心も、個人の理念浸透 と直接的に関わっていることがわかった
■     「理念の教育・アピール」 や 「理念に基づく行動評価」 という組織的施策のインパクトは、個人の組織成員性や職場における理念への関心 によって異なることが見いだされた

*次回に続きます。文責はもちろんですが、内容の理解・解釈の責任は全て下平にあります。ご質問やご指摘がありましたら、ぜひお知らせください。

本のデータ:
高尾義明(たかおよしあき)・王英燕(おうえいえん)(2012) 『経営理念の浸透――アイデンティティ・プロセスからの実証分析』 有斐閣

下平博文
IABCジャパン理事 (花王株式会社)