『“実践”理念経営研究会』(第2期、第4回)

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だいぶ前のことになってしまいましたが、10月18日株式会社ジェックの主催する『“実践”理念経営研究会』(第2期、第4回)に参加してきました。会場は山科にある京セラ経営研究所です。
今回は、ジェックが用意した<事業コンセプト策定シート>という書式を事前に埋めて持ち寄り、参加企業各社が発表し自由に議論をするというものでした。このシートについてあまり詳しくふれることはできませんが、「コーポレートアンカー」などの4つ切り口から各社の事業を整理し、それをミッションとしてまとめて記入するものです。この「コーポレートアンカー」はジェックが開発したものであり、詳しくは会社のサイト等をご覧いただきたいと思います。ちなみに、ぼく自身はあまり熱心なアンカー支持者とはいえません。ともあれ、このシートは書きやすく、また考えるヒントをいろいろもらうことができました。意見交換も活発に行われ、良いプログラムだったことは間違いないと思います。以下、当日気づいたことを幾つかあげたいと思います。

■どのような幸せを実現するのか
各社、事業活動を通じて社会に貢献するというミッションの基本的な枠組みは共通するということが確認できました。もちろん、誰に、どの領域で、どのようにそれを実現するのかというところに、各社各様の考えと工夫と、誇りがあるのだと思います。
前回の研究会のときに同じグループのなかにロケットの開発に携わる方がいて、その人は宇宙を舞台にした大きな人類の夢を語っていました。それを聞いて、ぼくの勤務する花王株式会社のように日用品を扱う会社はどうなのだろう?と考えたとき、逆にめざす社会の姿がクリアに見えてきたような気がしました。それは宇宙スケールではなく、地に足のついた日々の暮らしの姿、ハレとケでいえばケの世界。平凡な日常のひとこまひとこまを、普遍的な幸せや美しさに満ちたものにすることができたら――ちょうどフェルメールがそうしたように――とそんなことを思いました。

■落としどころのある仕事と設けない仕事
そうした仕事をするために大切なのは何なのか?最近ぼく個人は、感性という言葉が気になっています。きっかけは同じ会社の研究者と話していて、ある一言から目が覚めるような感性の鋭さを感じ、感動したことです。通常の仕事では、あらかじめ落とし所を想定して、そこに最短で到達することが評価されることが多いのではないでしょうか。確かに効率を考えると、それがスマートな仕事振りといえると思います。しかし、そうして完遂した仕事は完遂したこと自体の快感はありますが、中身についてどこまで自分のものになっているかというと、少し心許ないところがあります。もちろんそうした仕事振りは大切なのですが、逆に落とし所を考えずに、課題やそれを取り巻く環境が語り掛けるものに無心に耳を傾けてみるという時間も大切なような気がします。そして、自分の感性を信じて、それが捕まえたものに賭けてみる。ほんとうに実(じつ)のある仕事をするためにも・・・。
とはいえ、落としどころのある仕事と設けない仕事というように二項対立で分けてみましたが、実際の仕事は、あるときは落とし所を想定し、またあるときはその自分の感性を働かせてみる、というスパイラルなプロセスを経るのが当たり前なのかもしれません。

■共通善
後半の議論は、共通善というのがひとつのキーワードになりました。いわゆる「世の為、人の為」ということですが、議論に加わるうちに気づいたことをひとつ。それは、共通善といった普遍性に根付いた事業でなければ、そもそも長続きするはずがないではないかということです。
CS=顧客満足、ということがよく言われます。でも考えてみたら、顧客がその会社が提供する商品なりサービスなりにそれなりに満足をして、再購入するというサイクルがなければ、そもそも商売としてなり立たないはずですよね。だから、日本といういちおうまともな社会で、まともに仕事をしている会社であれば、すでにCSは果たしていると理解してよいのではないでしょうか。これと同じように、共通善というのも平凡な私たちからかけ離れた何か崇高なものというよりは、日々の仕事のなかで静かに実践されているものではないでしょうか。

*このテキストは下平個人のブログ(10月30日)から転載したものです。

下平博文
IABCジャパン 理事
(花王株式会社)