ダイバーシティについて幾つかのこと
最近、たまたまダイバーシティに触れる機会が多かったので、考えの整理と記録のために書いておきたいと思います。
■ビジネスにおけるダイバーシティ
いまダイバーシティが最もリアルな課題となっているのは、マーケットをグローバルに求めている企業ではないかと思います。なぜ多くの日本企業は、海外のビジネスで苦労をするのか?その答えの一つに、ビジネスの仕方が社会(国)によって違うということが、上手く認識されていない、ということがあるのではないでしょうか。ともすれば極端な異質論と同質論のなかで、対応が揺らぎがちのような感じがします。そうしたことをあらためて認識したのは、知り合いから勧められて 『世界で戦える人材の条件』 渥美育子(PHPビジネス新書)という本を読んだからでした。
この本では各国のビジネスのスタイルを大きく3つに分類をしていますが、一つのスタンダードになる見方だと思います。たとえば、アメリカなどのアングロサクソンの社会は、社会の基盤をルールとノウハウに置く リーガルコード(Legal Code)の社会に分類されます。日本は、人間関係を基盤に置く モラルコード(Moral Code)の社会です。筆者の考えるところは、自身が属する社会のコードとそのメリットを自覚し、あわせて他のコードについても異なるものとして理解を深めるべきであるというものです。
また、これはよくいわれることですが、日本は同質性を前提とした社会で、ダイバーシティの活用がそもそも得意ではない、ということもいえるでしょう。こうしたビジネスに関わるダイバーシティの問題が、日本企業がいまひとつグローバルなマーケットで大きくなれない理由の一つといえると思います。
■ジェンダーのダイバーシティ
また、社会的には女性の活用が大きなテーマになっています。先日、株式会社ジェックの福井夏子さんの 『多様性をイノベーションにつなげよう』 という、たいへんわかりやすい話しを聞く機会がありました。配られたスライドの言葉で、以下にまとめてみます。
〈多様性とは 「違いがあること」 「バラエティがあること」 であり、性別、人種、年齢、身体的特徴などの目に見える 「表層の多様性」 と、価値観・感性の領域である「深層の多様性」 がある。企業の競争力を高めるためのダイバーシティマネジメントであれば、後者が重要である。
多様性活用を阻害するものが固定観念である。「会社とは、・・・であるべきだ」「仕事とは、・・・と進めるべきだ」「男は・・・」「女は・・・」「外国人は・・・」「新入社員は・・・」 などなど。
固定観念の壁を取り払うためには、「自分の考えは固定観念に過ぎないのではないか?」 と常に問いを投げかけること。また、外国人との交流、異業種との交流、普段話さないタイプの人と話す、本や映画から学ぶなどの固定観念の壁を揺らす体験をすることも有効〉
表層・深層の多様性でいえば、ジェンダーのダイバーシティはより本質的ではない表層に分類されます。そうであれば、各社が取り組んでいるような女性の管理職比率などは、評価指標として使うのは構わないが、目的とするのは本末転倒である、とする議論が成り立ちます。しかしながら、日本の会社社会においては、最初に挙げた同質性を前提としたビジネスのあり方という課題に風穴を開ける可能性もあり、非常に射程の大きなテーマだという見方も成り立つと思います。
いずれにしても、現在の日本企業の組織風土のままでは立ち行かないということでしょうね。これについてブロガーとして有名なchikirinさんの 「生産性の概念の欠如がたぶんもっとも深刻」(2013-10-15)という記事がとても面白かったので、一部を紹介します。日本って 「生産性」 という概念があるのは、工場の中だけなんじゃないの?と嘆いて次のように書きます。
〈たとえば、朝からずっと一生懸命、仕事をしてる(つもり)で、夕方5時になる
もちろんその段階では、「いまいちなものしか、できあがっていない」
なので、5時から、当然のように「頑張る」
夜の9時になる
でも、もうちょっと「頑張ったら」、もうちょっとよくなるんじゃないかと思える
なので、夜の9時から、当然のように「頑張る」
ふと時計を見ると、夜中の12時を過ぎている
「はっ!」と思って、頑張るのをやめて、終わりにする
こういう仕事の仕方をしてる人が多過ぎです〉
このような生産性を度外視した仕事についていける人しか会社に残れないとしたら?これがこれまでの日本の職場の空気だとすれば、ジェンダーのダイバーシティは絶望的だと思いませんか?ですから、ジェンダーのダイバーシティは、これまでの企業社会をつくってきた、あえて言えば男性の問題なのです。
■ダイバーシティとは一人ひとりをリスペクトすること
9月14日(土)立教大学で 『アジア女性ビジネスリーダー・ミーティング2013』 という催しがありました。私が勤務する花王が特別協賛だったということもあり、話しを聞いてきました。檀上にあがったのは、企業経営者や社会活動家などいずれもスーパー・レディーというべき錚々たる経歴のアジアの女性の皆さんだったのですが、話しは見事に、というか揃いもそろって個人としてのストーリー・・・たまたま才能と運に恵まれはしたが、基本的には一人の人間(女性)として、誠実に生きてきて、そしていまがある、というものでした。ジェンダーの概念論や制度論に陥ることなく、まず一人の個人としての生き方がある。それを聞いて、ダイバーシティの根本はここだな、と思いました。誰もがもっている個人のストーリーに耳を傾けることで、自ずと湧いてくるリスペクトの気持ちを互いに持ち続けること。これがダイバーシティの出発点ではないでしょうか。
これは心当たりがあります。花王の理念共有のプログラムの一つに、各々のやりがいのあった仕事を紹介し合うというものがあります。人材開発のメンバーが紹介してくれたものです。このセッションで互いの考えや、その背景を知ると、場の雰囲気がぐっとよくなるという実感があります。それまでの隣の島のただの小汚いおじさんに過ぎなかったのに、こんな仕事をしてきて、こんなことを考えていたのかと知るだけで、尊敬の念のようなものが芽生えてくる。先に紹介をしたジェックの福井さんも「知れば好きになる」といっていました。
ダイバーシティを推進するために仕組みやシステムをつくることは、非常に重要で必要なことです。しかし、仕組みやシステムを考えるときの私たちの頭のなかでは、対象となる社員の一人ひとりの顔が曖昧になって、いつの間にか大きなマスになっているという傾向はないでしょうか。私は、それは仕方がないこと、と思います。ですから、ときどき意識して、この出発点、一人ひとりのストーリーに立ち返ることが大切かな、と考えるのです。
下平博文
IABCジャパン 理事
(花王株式会社)