IABCアジアコンファレンス@香港 (4)4月9日

topics

コンファレンス3日目は早くも最終日。会場では朝食も提供されるので、みんな早めに来てそれぞれ立ち話や積極的に情報交換をしています。

以前はノートPCを抱えている人が多かったのですが、最近はほとんど見かけません。逆にiPhoneやブラックベリーを持つ人がほとんどです。以下、2日目に参加したセッションのタイトルと寸評です。

「4月9日」

7.モーニングキーノート:社員の意識共有を促す新たなルール
Mark Schumann, ABC

IABCのプレジデントでもあるマークシャーマンさんのプレゼンテーションはオープニングレセプションのテーマを継承するものでした。
IABCに参加するようになって強く感じることですが、多くの企業や団体が「社内コミュニケーション」をとても重要な経営マターとして捉えているということです。

8.アジアでのブランドプレゼンス:BASF
Christian Schubert / BASF

ケミカル業界の企業の評判はイノベーションではあまり高くないのに「環境危機や危険」というキーワードだとトップに来るという状況にあるため、継続的な安全性へのコミットメントを表出していくこと以外に信頼を得る方法は無いと考えているようです。

また、「サスティナビリティ」という言葉はCSRなどでよく使われますが流行り言葉のようで耳障りは良いですが具体的にその企業の考えや行動に落とし込めていないところが多い、という指摘はドキットするものがありました。

BASFでは「自社の立場」でモノを言うのではなく、社会市民の立場でそれに応えようとしているようです。たとえば「アフリカは地理的にはヨーロッパ、アジア、アメリカの中心に位置するのに、その世界の真ん中が一番貧困なのはおかしいのではないか?」というような提言です。

また自国やヨーロッパで展開するキャンペーンやコミュニケーションのアプローチを翻訳レベルでそのまま他の地域(特にアジア)に持ってきても機能しない場合が多い、というのも面白い考察でした。
ローカルのコミュニケーショントレンドやビジュアルランゲージの理解無しにはブランドの確立は難しい、ということです。

9.なぜ「エンプロイコミュニケーション」は経営の重要課題なのか
Paul Matalucci, ABC / Wordwright Communications, Inc.
Pauline Young / Wordwright Communications, Inc.

これは広報や人事担当者のみならず、わたしのように外部から企業のコミュニケーションに携わる立場にとってもとても価値のあるセッションでした。(もちろん経営者にとっても)
アメリカ的かもしれませんが、このセッションも前日のユニリーバと同様、ロジカルなアプローチを取っています。

通常、「エンプロイコミュニケーション」というと、経営者の言いたいことをどう効率よく社員に届けるか、というベクトルで考えることが多いのですが、逆に社員を通して社会の変化やニーズ、課題など、経営者が欲しがる情報を届け価値化していくところから始めるというのが興味深いところです。
また、エンプロイコミュニケーションの課題が解決できない理由の多くはツールや仕組みではなく、それをドライブする担当者の育成が滞っているところにあり、社員の生産性の低下や離職のコストと比較して担当者の育成と維持コストがとても安いと説明していました。

多くの企業が「伝えればよい」程度の意識でいるため人材育成の方法やキャリアモデルが十分で無い状況だ、というのは日本企業でも同じではないでしょうか?

10.キーノートランチョン:社会を変革させるコミュニケーション
Tony Meloto / Gawad Kalinga

トニーさんは社会福祉団体ガワード・カリンガに属し、フィリピンのスラムの環境改善に尽力されている方です。
フィリピンは貧富の差の激しい国で、国を繁栄させるためにはその解消が欠かせない、と貧困地区に家を建て、自立を支援する農場や灌漑施設、教育施設などを作っています。
これらのプロジェクトが今日かなりの成果を見い出している要因は、ひとりの人間の情熱だけではなく、類まれなるコミュニケーションリーダーシップにあるということが伝わってきました。

11.ソーシャルメディア時代の危機管理
Gerry McCusker / Engage ORM (Online Reputation Management)

ネットの発達によって以前にもまして企業の不祥事や事件、事故が数多く取りざたされるようになってきました。
「ほとんどの場合、それは企業の独善性とコミュニケーション品質の低さにある」とジェリーは説きます。

広報の仕事は「公聴(意見を聞き入れる)」ことの重みが増してきたとも言えるでしょう。
北米では50%以上の企業がネットの無料モニターツールを活用していると言っていました。さまざまなツールの紹介と共にそれらを通じて常に事実の確認とレポート、対応を行う詳細なプロセスを紹介してくれました。これは非常に役立つ内容でした。

12.アジアのメディアを理解する
Moderator / Thomas Crampton / Ogilvy Public Relations Worldwide
Panelists / Mary E. Kissel / The Wall Street Journal Asia
Kenneth Howe / South China Morning Post
Jasper Chan / Alibaba Group

オグルビーのトーマスさんが改めてモデレーターとなり、アジアのメディアや企業のパネリストと、マスメディアの特徴を議論しました。

アジアはさまざまな国や文化が集まる地域なので、情報価値の捉え方が難しいのが現実です。「マスメディア」も単にニュースを伝えるということだけでは存在意義を問われるようになってきているということなのです。

一番印象に残っているコメントは
「企業はプレスリリースに”事実”を書いてよこすが、われわれが欲しいのは”アイディア”なんだ。それが記事(価値)となることを理解して欲しい」
というものでした。

参考になります。

13.クロージングキーノート:企業コミュニケーションの将来
Steve Crescenzo / Crescenzo Communications

クロージングキーノートはグローバルコンファレンスでも人気のスティーブ・クレセンゾさんが、キャリアモデルとしての企業コミュニケーターが、これから5年でどのような変容を遂げるのか、という未来志向の話をしてくれました。

メディアの移り変わりやテクノロジーの進歩への対応など、さまざまな要素がありますが、それらに振り回されることなく、結果(=ビジネスや社会への貢献)を出すために重要な資質はずばり「クリエイティビティ」だと述べています。

厳しく、急速な変化が起こりえる現代においては「ヒト、モノ、カネ」が無いから何も出来ない、では始まらない、ということです。

そのためには
1.他者理解や感受性
2.ストーリーの発見と伝え方
3.マネジメントだけでなく社員みんなのコミュニケーションを活発にさせるための
コーチング、アドバイス、アシスタンス
がキーになるでしょう。

奇しくもオープニングでマークシャーマンさんがおっしゃっていた
「だからこそプロのコミュニケーターの役割は、リーダーや企業の特質をとらまえ、人々が求めていることに応えるところにあるのです。」

に見事に呼応する内容でした。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

あっという間の2日半でしたが、強く感じたことは
「日本企業や社会の存在の希薄さ」
でした。

正直、日本からの参加者はわたし一人ですからしょうがないのですが、個別に話をすると、結構みんな日本に興味を持っているのがわかります。
しかし相手がどのような興味を持っているか聴く機会がなければ、伝える(伝わる)きっかけになりえない、ということなのです。

「グローバルコミュニケーション」、「コミュニケーションリーダーシップ」、「グローバルソーシャルレスポンシビリティ」どれも日本企業や社会の弱い、あるいは欠けているといっても過言ではないテーマです。
まさに「ジャパン・パッシング」がなされている現状を踏まえ、逆にこれらの意識付けからコミュニケーター人材の育成を行うことが日本企業や社会に必要なことなのではないでしょうか。

アジア大会は「グローバルコンファレンスのダウンサイズ」程度に考えていた私にとって逆にかなり考えさせられる機会になり、参加して本当によかったと思いました。


最後のセッションで偶然隣に座った男性(手前の白いシャツ)の方は、私以外に日本から参加された唯一の方で、沖縄の米国海兵隊の広報の方でした。
もちろん日本でのIABCの活動にも大きな興味を持ってくださっていました。
最後にまた、強い味方を得ることが出来ました!