『 インナー・コミュニケーションと社内報 』 産業編集センター

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社内コミュニケーション・企業理念・企業文化に関わる書籍を紹介しています。今回取り上げるのは 『 組織と人を活性化する インナー・コミュニケーションと社内報 』 産業編集センターです。産業編集センターとは社内報を中心に広報ツールを制作している会社とのこと。本書は同社が発行している 「 企業広報ブック 」 シリーズ全6巻の一冊です。

 インナー・コミュニケーションは、ひと言でいえば企業経営をサポートするための “経営ツール” の一つですが、そうした見方がなされるようになるまでには、それなりの歴史的な経緯があったといいます。その部分を引用しましょう。

 《 インナー・コミュニケーションは、商品広報や社外広報のように企業の売上や評価に直接影響するものではありません。そのため経営側の関心も低く、これまでは社内イベントを開催し社内報を発行することがインナー・コミュニケーションだと考える企業も多かったようです。いわば、社員の福利厚生や親睦をサポートする活動の一つとして捉えられていたといえるかもしれません。
 インナー・コミュニケーションへの認識が変わり始めたのは、1990年代半ばのバブル崩壊以降です。未曾有の不況と混迷の中で、従業員の帰属意識と一体感を高めて難局にあたることが企業の急務になったからです。誤解を恐れずにいえば、インナー・コミュニケーションはこの時期に初めて、重要な経営施策の一つとして認識されたといえるでしょう。 》 (アンダーライン:下平)

 みなさんの会社ではいかがでしょうか?経営者と担当者に、そして受け取り手の社員に、社員親睦のツールではなく、経営ツールの一つとして、その重要性がしっかりと認識、共有されているでしょうか。とはいえ、親睦VS経営という単純な二分法は注意すべきだと思います。戦略的にボトムアップで情報をまとめた結果、見た目には親睦誌のように見えるということも十分あると思います。ここでいっているのは役割のことで、伝達・表現スタイルではないということですね。

 続いてこの本では、インナー・コミュニケーションとは、社員一人ひとりの意識と行動を変えさせる 「 行動変革活動 」 と言い換えることができる、としています。つまり、インナー・コミュニケーションには“目的”があり、それは社員の “行動変革” にあるということです。この視点は、非常に重要だと思います。

 そしてコミュニケーションによってうながされる社員の行動変化のモデルとして 「行動変革プロセス ARAC (アラック) 」を紹介しています。

  • Acknowledge 知る [認知]
  • Realize 分かる [理解]
  • Act 動く [行動]
  • Change behavior 変える [定着]

 ここまではよいのですが、本の後半は、なぜか一般的な印刷物やネットによる社内報のつくり方や事例紹介にとどまり、この  「 行動変革プロセス ARAC 」 の動かし方について、説得力のある論が展開されているとはいえません。特に、Act と Change behavior をどのように実現するかについては尻すぼみに感じられます。実は、ここにいまの社内コミュニケーションを巡る大きな課題があるように思います。以下、本の紹介を離れて、評者である私の持論になってしまいますがお付き合いください。

 IABCでは ”Generational Communication Difference Around the Globe” という調査結果を発表しています(http://iabcstore.com/IABCRFRpts/generations.htm)。そのなかで「どのような社内コミュニケーション ( employer communication ) が重要だと思いますか?」という質問があり、答えで多かったものから 「 仕事のフィードバック 」 「 際立った成果をあげたときの評価 」 「 職場の双方向のコミュニケーションの機会 」 「 会社のポリシーについての情報 」 「 事業目標の進捗の説明 」 「 キャリアや昇進についての相談 」 「 組織のゴールの説明 」 「 会社の業績についての幹部からの説明 」 ・・・ となっています。

 これはあまりにもあたりまえの調査結果ですか?あるいは、人材育成や組織開発のカバーする領域の課題であり、必ずしもコミュニケーションの課題ではないでしょうか?

 しかしながら、ここから私が読み取るのは、昔の言い回しを借りれば、「 コミュニケーションは現場 (職場) で起こっている 」 ということです。次のような例を考えてみましょう。よくあることですが、社内報で 「 グローバル企業にひと皮向けるための意識変革 」 を目的に特集を組んで配布したとしましょう。しかし、職場のリーダーが常日頃からそうした経営の方針に懐疑的であり、メンバーの意欲をそぐような後向きの発言を繰り返していたらどうでしょう ・・・ 社員は社内報の内容をまともに受け取るでしょうか。まして、Act と Change behavior につなげることができるでしょうか。

 インナー・コミュニケーションには “目的” があり、それが社員の “行動変革” にあるとすれば、そしてそれを実現するモデル 「 行動変革プロセス ARAC 」 が理にかなっているとすれば、“職場における” コミュニケーションは無視すべきではないのではないでしょうか。社内コミュニケーションのボトルネックは職場にあるのです。しかしながら、この本にみられるように、これまでの議論は社内報といったメディアにしばられることが多く、あまりここには触れてこなかった。そこに限界があるのではないかと私は考えています。

 それでは私たちはどうしたらよいのでしょうか?それをみなで考える場が、このIABCではないかと私は考えています。

【今回紹介した本】
産業編集センター 『 組織と人を活性化する インナー・コミュニケーションと社内報 』 2011

下平博文
IABCジャパン 理事
(花王株式会社)