『社会貢献でメシを食う。』 竹井善昭

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社内コミュニケーション・企業理念・企業文化に関わる書籍を紹介しています。今回取り上げるのは  『 社会貢献でメシを食う。だから、僕はプロフェショナルをめざす 』 竹井善昭です ( 内容とは関係ないですが、タイトルに句読点がつく本は珍しいですね ) 。

 社内・外を問わずここ数年の企業コミュニケーションの大きな話題は、テーマとしては何といってもCSR ( 企業の社会的責任 )、メディアでいえばフェイスブックなどでソーシャルメディアということになるのではないでしょうか。これらをめぐって、日本全国で毎日いったい何本のセミナーが開催されていることでしょう。

 こうした時代の新しい潮流について、担当者からしばしば聞かれるのは、一般社員や経営層の無理解・無関心です。しかし、無理解・無関心は当然のことで、そこでめげていたら、なかなか前に進まないですね。なぜそれは当然のことなのでしょうか。

■     ビジネス・パーソンはみな忙しい。したがって評価が定まっていないものには、関わり合いになりたくない。効果・効能・評価がはっきり確立されてから、自分のところにもってきてくれ。

■     既得権、といった強い言葉を使わなくても、一応いままでのやり方でOKと思っている ( 大多数の ) 私たちは、本能的に新しいことに警戒をする。ノーマルですよね。

 そもそも新しい物事の全体像や本質がつかめない、という担当者自身の苛立ちもあるようです。今回紹介するのは、CSRについてそうした思いに応える一冊、といってよいでしょう。一年前の本ですが、ソーシャル・ビジネスの “ いま ” の息吹を感じることができます。

 この本の好感の持てる点は、言葉一つひとつがわかりやすく丁寧に解説されていることです。社会貢献を仕事にすることが 「 ソーシャル・ビジネス 」、そしてソーシャル・ビジネスを行うのが 「 ソーシャル・アントレプレナー 」 です。筆者は、社会 “企” 業家と、社会 “起” 業家をはっきり区別していて、ソーシャル・アントレプレナーを前者の広い意味で使っており、それになるためには次の四つの選択肢があるとしています。

■     社会起業家になる ―― 個人の力を活かして、自らの力でソーシャル・ビジネスを立ち上げる ―― ソーシャル・ビジネスのコアなイメージはここですよね

■     NPO/NGOに入る

■     企業に就職する ―― いまや一般企業でも、社会貢献を仕事にする機会があるのが普通になってきました

■     プロボノになる ―― 専門的なスキルでNOPなどをサポートする、新しいタイプのボランティア ―― プロボノのプロはプロフェッショナルのプロ?と思ったのですが、どうも違うみたいです

 ここでは、三番目の企業の社会貢献について、少し詳しくみていきます。

 筆者は、いまや 「 社会貢献したほうが企業は儲かる 」 という概念が定着したといいます。それまでみな、なんとなくそうかなと思っていたのが、マイケル・ポーターの 「 戦略的CSR 」 の提唱で確定した。また社会貢献したほうが社員のモチベーションが上がることも証明済みとしています。

 こうした時代には、CSRは企業の中核になるので、CSR部だけが担当するのではなく、経営企画、商品企画、広告・宣伝などのスタッフ部門から、製造、営業などのライン部門まで、全社をあげてCSRに取り組まなければならなくなる。CSRは経営戦略そのものになるのです。

 本当か?と突っ込みを入れたくなるかもしれませんが、不思議なことに 「 もう議論の季節は終わった、とにかく実行に移そう 」 という割り切りの良さ、潔さが伝わってきて、気持ちが前に傾きます。これは、次のような筆者の姿勢からくるのではないでしょうか。

 《 世界中の 「 何かに困っている人たち 」 の希望に、ほんの少しでも役に立てたとしたら、僕らは僕ら自身に希望を抱くことができるようになる。誰かの役に立てるような人間になること、なれること。これが希望の原点だ。
 社会貢献とは、誰かの絶望に寄り添うことではない。希望を生み出し共有することだ。僕らがめざすべきは、涙の共有ではなくて、笑顔の共有だ。
 自分の力で笑顔の連鎖をつくり出すことができたら、人は誰でもハッピーな気分になれる。本当の自分に出会うとは、こういうことだとわかるだろう。だから、社会貢献は自己犠牲ではなく、“ 自己実現 ” なのだ 》

 いかにもベタですが、これでいいじゃないですか。

 著者は、社会貢献がブームだといわれているが、実はまだまだ本格的なブームにはなっていないといいます。ここら辺のセンスは、筆者のマーケティング・プランナーという経歴の面目躍如ではないでしょうか。

 《 NPO関係には、ブームという言葉を嫌う人も多い。ブームはいつかは終わるものだが、社会貢献をブームで終わらせてはならない。それが嫌う理由だ。確かに、基本的にブームは3年で終わる。
 しかし、モノゴトは一度、ブームにならなければ拡がらない。ブームにならないものは消え去るか、一部の愛好家だけの狭い市場しかつくれない。モノゴトはブームが終わったあとで、本格的に拡がっていくものなのだ。
 だから社会貢献で重要なのは、本格的なブームを起こすこと。そして、ブームが終わったあとも、世の中の社会貢献への関心をさらに高めることである 》

 企業のコミュニケーション担当者は、常に世の中の新しい動きをつかんでおかなければなりません。そこから自社に取り入れるべき本質は何か見極めるのが役割です。そのためには、プロとしては、一度は踊りを踊ってみないことには話しにならない、ということもあるのですね。ブームと呼ばれるのを怖れない勇気をもらった気がします。

【今回紹介した本】

竹井善昭 (たけいよしあき) 著 『 社会貢献でメシを食う。だから、僕はプロフェショナルをめざす 』 ダイヤモンド社,  2010

下平博文
IABCジャパン 理事
(花王株式会社)