『経営理念の浸透』 を読む 第5回
今回は、個人における理念の浸透が 同じ組織に属する人たちからどのような影響を受けるのかをみていきます。あまりに学術的だと思われる記述は省き、その場合は見出しのみ書き起こします。また学術的な用語は、見出しではそのまま生かしますが、内容の要約(■の部分)ではできるだけ普通の言葉に置き換えるようにします。
第Ⅱ部 経営理念浸透のメカニズム
第4章-他者の理念浸透との関係性
1-はじめに
■ 本章では、個人における経営理念の浸透が組織内他者から受ける影響についての検討を行う
■ 組織内他者には、同じ職場の同僚、上司、他部門に所属する人、経営層などが含まれる
2-自己と他者の理念浸透の関係性パターン
3-関係性のメカニズム
3.1 直接的な相互作用の結果
【命題4-1】個人の理念浸透は組織内での 「重要な他者」 の理念浸透と正の関係にある。
■ 「重要な他者 (significant others)」 とは、企業組織という状況で考えると、個人と頻繁に接触できて個人の組織生活に重大な影響力をもつ人
■ 直接監督・指導を担当する上司が組織における 「重要な他者」 であることが多いものの、組織階層上の上位者に限定されるわけではない
3.2 認知的プロセスの産物
【命題4-2】個人の理念浸透は、内集団にカテゴライズされた他者の理念浸透とは正の関係にある一方、外集団にカテゴライズされた他者の理念浸透とは負の関係にある。
■ 自身と同じ社会的カテゴリーによって定義づけられている人であれば 「内集団」 、異なる社会的カテゴリーによって定義づけられている人は 「外集団」 とみなされる
■ 内集団の人が高く評価され、外集団の人が低く評価される傾向がある
3.3 相互作用と認知的プロセスの複合
■ 個人はさまざまな集団に所属しており、ある基準で外集団にカテゴライズされた他者が、別の基準では内集団の一員とみなされることがある
4-企業内他者のカテゴリー
4.1 上司
4.2 経営者
4.3 同僚
4.4 他部署
5-関係性の検証と検証結果
5.1 データの概要
5.2 変数の説明
5.3 主要な変数間の相関関係
5.4 重回帰分析の結果
6-結論の整理と実践的意義
6.1 結論の整理
■ 上司の理念浸透はすべての次元、すべての会社において、個人の理念浸透と正の関係にあり、最も安定的な関係を示している
■ その他の経営者、同僚、他部署においては明解な結論は得られなかった
6.2 他者との関係性に注目した実践的含意
■ 理念浸透が進んでいない企業では、上司が理念を大切にしているように見えないため、部下も理念について真剣に受け止めてはいない
■ そうしたなかで理念浸透を推進するには、まずは上位の階層から理念に対する理解を深め、さらには理念の実践を促進する施策をとることが不可欠となる
■ そのために有効な手法の一つとして、カスケード式の研修を行うことが挙げられる
■ これは最も上位の階層が最初に研修を受け、次に研修を受けた上位者が次の段階の階層が受講する研修の講師役を務めるということを繰り返すことで、徐々に全社的な浸透を図るものである
■ 経営者は、理念そのものや理念浸透に対する自らの姿勢を社員に積極的に示し、理念への理解を深めるための機会をより多く設けるとともに、現場の立場でどのように理念を実践するかについてともに考える姿勢をとることが大切と思われる
■ その一例として、創業家出身のトップが、少人数の若手・中堅層に対して直接、理念について伝えるような施策がある
■ 全社的な取り組みや、部署間の対立関係を和らげ、協力関係と強化するような風土づくりも求められるだろう
7-まとめ
*次回に続きます。文責はもちろんですが、内容の理解・解釈の責任は全て下平にあります。ご質問やご指摘がありましたら、ぜひお知らせください。
本のデータ:
高尾義明(たかおよしあき)・王英燕(おうえいえん)(2012) 『経営理念の浸透――アイデンティティ・プロセスからの実証分析』 有斐閣
下平博文
IABCジャパン理事 (花王株式会社)