エキスパート・プリスクライバー

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『体系 パブリック・リレーションズ』 が次にあげる役割は、エキスパート・プリスクライバーというものです。本文を読むと、日本でいわゆる“広報のプロ”と考えられている人材像ときわめて近い感じがします。それでは広報のプロとはなにか?今回も、本文をかいつまんで引用します。

《実務家が専門家の役割を担うと、他の人は彼らをPRの問題と解決の権威者として見ることになる。実務家は、問題を明確にし、プログラムを作成し、その実施に全責任を負う。他のマネジャーは、PRの全責任を実務家に一任すれば通常の職務に戻ることができるため、「PR専門家」 がすべてに対処することに満足している。エキスパート・プリスクライバーの役割は、なすべきことは何か、どのように実施すべきかに関する権威として見られることで個人的に満足が得られるため、実務家にとっては魅力的な役割となる》

ここからが問題です。

《雇用主やクライアントは、いったん専門家が業務に就けば、自分たちはもはや関与する必要がないだろうと勘違いする。こうして、PRが、企業の主流から分離し孤立することになる。ラインのマネジャーは、自分自身が関与しないために、PRの問題が発生すると必ず専門家に依存するようになる。彼らはPRのための努力をほとんどしないか、コミットせず、プログラムの成否に責任を取らない。PRを組織体のメインラインのビジネスではなく、サポートスタッフが処理する、ときどきは必要な仕事とみなす》

こうしてPRが専門化する結果、PRの重要性の認識が組織から薄まっていくという皮肉な現象が起こるわけです。

《PRの専門家は、PRの問題にまで発展した要因の重要部分に関し、ほとんど、あるいはまったくコントロールできないにもかかわらず、プログラムの結果に全責任を負わされるため、これ以上ない不満を味わうことになる》

プリスクリプション (Prescription) とは処方箋という意味ですから、タイトルのプリスクライバーとは処方を出す人という意味でしょう。そう考えるとなかなか味がありますね。「こんなに症状が重くなる前に相談をしてくれればよかったのに」 といった嘆きが聞こえてくるようです。なかには、勝手に処方箋を書いてきて 「この通りの薬を出してくれ」 という人もいるかもしれません。しかし、それが当人が抱える課題のもっともよい解決方法かというと、必ずしもそうではありません。「まず、症状がどのようなものなのか、課題の本質は何なのかを探るために、じっくり話しを聞かせてもらえませんか?そのあとで、一緒に解決方法を話し合いましょう」 とでも提案すると、悪くすると職域を荒らしているように誤解されることもあるかもしれません。そこには、PRの役割は何か、その仕事の目的はなにか、そして私の言葉でいえばPRのオーナーシップとはなにかという、なかなかやっかいな問題が潜んでいるのだと思います。

スコット・M・カトリップ、他『体系 パブリック・リレーションズ』2008, ピアソン・エデュケーション

 
下平博文
IABCジャパン 理事
(花王株式会社)