トップマネジメントの役割
先日のこのブログで 「経営とPRの一体化」 ということをいいましたが、『体系 パブリック・リレーションズ』 には 「パブリック・リレーションはトップマネジメントから始まる」 という魅力的なタイトルの一節があります。ざっとみていきましょう。
《よくいわれているように、企業の評判は経営者の言動によるところが大きい》 として、以下の例があげられています。
■ ペリエのボトルから微量のベンゼンが検出されたとき、経営トップは汚染の深刻さをなかなか認めなかったため、企業の評判を落とした。
■ エクソンのタンカーが原油流出事故を起こしたとき、エクソンのCEOはアラスカの事故現場を訪れることがなかった。
■ TWA(現在はアメリカン・エアラインと合併)がロンドンで墜落事故を起こし230名の命が奪われたとき、CEOが現場に向かって出発したのは13時間も経ってからであり、事故の犠牲者や家族に対する懸念を直ちに表明しなかったことを糾弾された。
■ ジョンソン&ジョンソンの経営トップは、タイレノール異物混入事件が起きたときに、ただちに製品を店頭から引き上げ、メディアから称賛された。
■ テキサコのCEOは、人種差別を巡る裁判に関して証拠隠滅の事実が暴露されたときただちに謝罪し、多様性を増大させるためのプログラムを発表した。
これらの例は、信頼されるPRは経営者の誠実さと社会的に責任のある行動から始まることを示しているとして、PRが長期にわたって成功をおさめるためには、経営トップの以下のような協力が必要としています。
1. PRに対するコミットメントと積極的な参画
2. 有能な助言者を確保しておくこと
3. 方針の決定にPRの視点を盛り込むこと
4. 社内・外の双方向のコミュニケーション
5. 発言内容と行動の一致
6. 目的 (goals) と目標 (objectives) を明確に定義すること
ここで 「組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持する」 というPRの定義を確認しておきたいと思います。ソーシャル・メディアの活用がすすむ最近では、社員一人ひとりが会社の代表者でありメディアである( ”アンバサダー” とよくいわれますが、適切な訳語が思い当たりません) という考え方が一般的になっています。上記の事例は、いずれも危機が発生したときにトップがどう振る舞うか、という観点から選ばれており、少し発想が古いのは否めません。今後は、PRの役割をよく理解し、平時において実践するトップをいただく組織が効率がよい、という見方が主流になってくると思います。
スコット・M・カトリップ、他 『体系 パブリック・リレーションズ』 2008, ピアソン・エデュケーション
下平博文
IABCジャパン 理事
(花王株式会社)