『 企業文化 ― 生き残りの指針 』 E.H.シャイン
社内コミュニケーション・企業理念・企業文化に関わる書籍を紹介していきたいと思います。最初に取り上げるのは 『 企業文化 ― 生き残りの指針 』 E.H.シャインです。
社内のコミュニケーションについては、何を、どのように伝えるかが論じられることが多いと思いますが、逆に、対象である社員について考え、また社員の側から考えてみる機会は意外と少ないのではないでしょうか?しかし、マーケティングのコミュニケーションにおいて消費者のニーズやライフスタイルに対する考察が欠かせないように、社員のニーズや価値観について考えることは、社内のコミュニケーションにも大きな果実をもたらしてくれるはずです。
企業文化と呼ばれるものは、そうした社員の価値観や行動様式のバックボーンをなすものだといわれています。それでは企業文化とは、そもそも何なのでしょうか?この問いに真正面から答えてくれるのがこの本です。
シャインは、企業文化を次ぎの三つに分類します。
●3段階の文化のモデル
●レベル1:文物(人工物)
筆者は次のような二つの職場を例にあげています。ある組織Aでは、人々はいろいろな会議で常に忙しく、壁やドアによる仕切がなく、服装もカジュアルで、至る所に熱気が満ち溢れており、テンポの速さが感じられる。別の組織Bでは、すべてが非常に形式的で、人々は閉ざされたドアの内側にいて、話し声もほとんど聞こえず、装いもきちんとしている。この文物のレベルでは文化は非常に明確で、直接感情に訴えますが、分析的に語ることは難しいとしています。
●レベル2:標榜されている価値観
A、Bのように職場の雰囲気が非常に異なっている2社が、逆説的なことに標榜する価値観 (企業理念など) が非常に似ていることがある。しかし、どちらの組織とも外部者として長期間付き合っていると、標榜されている価値観と目に見える行動との明らかな不一致が目につくようになる。このような不一致は、より深いレベルの思考、認識に依拠している、とのことです。
●レベル3:共有された暗黙の仮定
文化の本質は、集団として獲得された価値観、信念、仮定であるというのがシャインの主張の核心だと思われます。それは組織が繁栄をつづけるにつれて共有され、当然視されるようになったものであり、メンバーに当然のことと思われているために意識されることすらない。文化を理解しようとすれば、このような仮定を明確化する必要があるとしています。
また、同じく著者は、企業文化には次の三つの性質があるとしています。
●文化は深い ― 文化を表面的な現象として扱い、思いのままに操作し、変革できると思っていると、間違いなく失敗する。人が文化を支配するというよりも、文化が人を支配している。
●文化は広い ― グループはその環境での生き残りの方法を学ぶにつれ、内外をとりまくあらゆる関係について学習をしていく。上司との関係、顧客との関係、組織内のキャリアが持つ意味、昇進に必要とされること、聖域とは何か・・・。
●文化は不変である ― 文化が変わる恐れがあれば、どのような場合でも、変わることへの大変な不安と抵抗が生じる。自分たちの文化のある要素を変えることは、組織の最も変更しがたい部分に挑戦をすることである。
以上のような枠組みをもちいて、シャインは、企業文化の成り立ちと企業の成長にともなう変化について、またそれにアセスメントする方法について、さらに異なる文化が出合うときに起こることについて、具体的な事例を引きながら周到に論考していきます。学術的な記述で、翻訳ということもあり、決して読みやすくはないと思いますが、社内コミュニケーションの担当者にはチャレンジしてみる価値がある本だと思います。
【今回紹介した本】
E.H.シャイン著・金井壽宏監訳・尾田丈一・片山佳代子訳 『企業文化 ― 生き残りの指針 』 白桃書房, 2004
下平博文
IABCジャパン 理事
(花王株式会社)