『経営理念の浸透』 を読む 第2回

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前回と同様に、あまりに学術的だと思われる記述は省き、その場合は見出しのみ書き起こします。また学術的な用語は、見出しではそのまま生かしますが、内容の要約(■の部分)ではできるだけ普通の言葉に置き換えるようにします。

第Ⅰ部 経営理念浸透の複雑性

第1章-経営理念浸透の探求に向けて

1-はじめに

2-経営理念浸透の先行研究の流れ
2.1     研究対象としての経営理念の範囲
■     この本では、近年の傾向にならい、組織体として公表している、“成文化された” 価値観や信念の範囲に限定して扱う
■     この範囲に含まれると判断した場合には、企業理念、社是・社訓、ミッション・ステートメント と表記されているものについても含める
2.2 先行研究の流れの整理

3-本書の視点
3.1     個人における理念浸透解明
3.2     包括的アプローチの取り入れ
■     個人レベルでの理念浸透と 組織レベルでの理念浸透は 相互関連的な関係にあると考えられる
■     ミクロ と マクロ の異なるレベルでの理念浸透の概念化が可能な、統一的な枠組み、包括的アプローチに挑戦をするのがこの本のねらいの一つ

4-組織コンテクストのアイデンティティ理論の導入
4.1     意図的に提示された組織アイデンティティとしての経営理念
■     アイデンティティ とは主体による自己定義の試みであり、経営理念 には組織自身による自己定義が必ず含まれている
■     「われわれとは何者か」 「われわれはどんなビジネスをしているのか」 「われわれは何を欲しているのか」 といった問いに、経営理念は直接的、間接的に答えようとしている
■     成文化された経営理念と 組織アイデンティティが 一致していることは決して自明ではない、むしろ両者が一致していないことのほうが一般的と考えられる
■     組織が 経営理念を提示するだけで 実現に向かう努力をしなければ、経営理念は 「真」 の組織アイデンティティに反映されず、形骸化する
4.2     理論的系譜の整理
4.3     理論導入の背景

5-組織コンテクストのアイデンティティ・プロセス展開としての理念浸透
5.1 理念的カテゴリーの中心化プロセスとしての理念浸透
■     経営理念には 「われわれとは何者か」 よりも、われわれは 「何者であるかべきか」 「どうすべきか」 などの規範的な内容が多く含まれている、組織がすでに実現している部分も含まれているものの、これから目指す方向性を提示するという意味合いも強い
■     成文化された経営理念が 「われわれとは何者か」 という 組織アイデンティティの中心に位置しているとは限らない
■     そこで、経営理念が 組織アイデンティティに占める位置づけが増大し、最終的にアイデンティティの核 となることが、組織体において 理念が浸透した状態 であると捉えることができる
■     例えば、組織成員が 重要な問題や問いに答える際に 組織の本質を指し示しているものとして 経営理念が参照される、といった状態
5.2 組織アイデンティティへの体現プロセスとしての理念浸透
■     浸透には 経営理念が組織アイデンティティに体現されている と組織成員が認知することが不可欠
■     組織アイデンティティは次の3要件を満たすものである
     ・中核的性質、すなわち組織の本質とみなされるもの
     ・特異性、すなわち他の組織と区別する性質
     ・時間的継続性、すなわち時間を越えた持続性
■     経営理念が 以上の3要件を充たしていると 組織成員によって捉えられていれば、実態としての組織アイデンティティと一致していることになる
5.3 組織成員の自己カテゴリー化プロセスとしての理念浸透
■     もし経営理念が上記の3要件を充たしていると 組織成員によって捉えられているとしても、組織成員が自らのアイデンティティをその組織への所属に求めなければ、理念は他人事になってしまう
5.4 組織アイデンティティと個人アイデンティティの融合

6-まとめ

この章の内容から、私なりにまとめると、
■     経営理念が組織に浸透している状態とは、理念がその組織の 「本質」、「特異性(個性)」、「継続性(不変性)」 を表現しており、かつ実態との大きな乖離がないと組織成員が認識している状態
ということになると思います。これだと、どうしても抽象的ですが、逆に浸透していない状態を想像してみる方が容易ではないでしょうか。つまり、理念が単なる言葉・建前に過ぎず、悪いケースでは実態を覆い隠していると感じられるような状態です。
そんなことは浸透の定義としては当たり前ではないか、と多くの実務者は思うかもしれません。そのような結論を導き出すために、研究者はどうしてこのような回りくどい議論を繰り広げるのか、とも。しかし、私はこの論文と格闘しながら理解したのですが、そのような私たちの反応は、むしろこの研究のロジックが現実を上手く説明できていることを証明しているのです。
本文には 「理念的カテゴリー」 「組織コンテクストのアイデンティティ理論」 などといった、実は核となる重要な概念が綿密に定義されながら使われていますが、ほとんど説明からは省きました。しかし、それはそれで面白そうな概念ですので、機会があれば後日再考してみたいと思います。

*次回に続きます。文責はもちろんですが、内容の理解・解釈の責任は全て下平にあります。ご質問やご指摘がありましたら、ぜひお知らせください。

本のデータ:
高尾義明(たかおよしあき)・王英燕(おうえいえん)(2012) 『経営理念の浸透――アイデンティティ・プロセスからの実証分析』 有斐閣

下平博文
IABCジャパン理事 (花王株式会社)