なぜ企業理念は(たいていの場合)退屈なのか
以前紹介をした 『経営理念とイノベーション あこがれを信じ求める力が企業を動かす』 から、再度同じ文章を引用します。
《 経営理念をまとめようとする取り組みの中で、「抽象的になって、具体的な行動に結び付きにくい」 とか 「我社として他社との差別化ができてない」 などの声を耳にすることが多い。結論から言えば、経営理念のエッセンスは普遍的で絶対的な価値にある。それゆえ文言は抽象的にならざるを得ないし、他者 (他社) との比較という意味での相対的価値を表現しにくいのである。むしろ経営理念にとって抽象性や絶対性は極めて重要な特性である 》
このように、理念はそもそも抽象的で差別化しにくいという性質を持つため、文言だけみると、いきおい退屈なものにならざるをえないのです。何となく担当者の開き直りみたいに聞こえるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。企業理念 (Corporate Philosophy) には、
■ 一般性
■ 個別性
の二つの側面があるというのが私の考えです。企業理念は、その会社 “らしさ” が重要であるといったように、後者の個別性が強調されることが多いと思いますが、実はそれも一般性を前提とした議論と考えるべきです。
一般性というのは、その組織以外にも通用するということであり、普遍性と言い換えてもよいかもしれません。考えてみれば、企業というのは社会的存在ですから、その掲げる理念が社会の他の組織に通じないような、特殊なものであるはずはないのです。
各組織の個性は、理念の内容 (コンセプト) というよりは、むしろちょっとした言葉の使い方や順序といった表現に近いところで出るように感じます。もちろん、内容と表現は突き詰めると切り離すことはできないという前提で述べています。
私が勤務する花王の企業理念 「花王ウェイ」 には価値観として “よきモノづくり” をうたっていますが、実はこれは英語その他の言語でも “Yoki-Monozukuri” としています。なんとか他の言葉に置き換えようと四苦八苦したのですが、どうにもできず、結局日本語のままに残しました。これなどが表現に顕れた個性の一つの例に当たるかもしれません。もちろん海外のメンバーには “Yoki-Monozukuri” は当初は意味が通じないのですが、通じないからこそいろいろ互いにやりとりをしているうちに、意味するところや実践に深みが出てくるという側面もあると感じています。
そもそもIABCとはInternational Association of Business Communicatorsなのですが、いったいビジネスコミュニケーションとは何を指すのでしょうか?また、そのように概念化することによりどのようなメリットがあるのでしょうか?IABC本部の考え方を参照しながら、また時にはまわり道を怖れずに、少しずつ考えていきたいと思います。
下平博文
IABCジャパン理事 (花王株式会社)